近年、EC市場の拡大や、スマートフォンを使用したネットショッピングの需要増加に伴い、物流業界全体の取扱量は増加しています。
その裏で、物流業界では労働力不足、劣悪なトラックドライバーの労働環境、低賃金など様々な社会問題が発生しています。今回の「貨物自動車運送事業法」の改正によりそのような社会問題が解決されることを願います。
今回はその「改正貨物事業者運送事業法」について解説します。
もくじ
1.「貨物自動車運送事業法」改正
貨物自動車運送事業法の一部を改正する「改正貨物自動車運送事業法」が令和元年11月1日より施行されます。
これにより物流業界における社会問題の一つであった労働力不足などの問題が解決されると期待されています。
2.そもそも「貨物自動車運送事業法」って何?
貨物自動車運送事業法は、平成元年に制定されました。
トラック運送事業の種類・許可・完全確保義務などについて規定されています。
この法律の目的は次のようにあります。
第一条 この法律は、貨物自動車運送事業の運営を適正かつ合理的なものとするとともに、貨物自動車運送に関するこの法律及びこの法律に基づく措置の遵守等を図るための民間団体等による自主的な活動を促進することにより、輸送の安全を確保するとともに、貨物自動車運送事業の健全な発達を図り、もって公共の福祉の増進に資することを目的とする。
貨物自動車運送事業法第一条
上記した貨物自動車運送事業法第一条にあるように、自動車を用いた運送業の運営を適正かつ合理的なものにするための法律です。
3.【解説】「貨物自動車運送事業法」改正の背景について
2024年4月からの導入が決まっている罰則付きの時間外労働上限規制を見据えての法改正です。現状のまま、2024年4月を迎えると、年960時間である時間外労働上限規則に対応できない業者が多く、物流業界全体の輸送力が減少し、物流機能が維持できない恐れがあり、それを避ける必要があります。
物流業界の現状
現状、物流業界には法令違反である長時間労働を前提とするような業者も存在しています。
トラック運送事業において、1990年に物流二法が施行され、業界参入の規制が緩和されました。具体的には、事業参入を免許制から許可制に、運賃を認可制から事前届け出制に、事業開始に必要な最低保有車両台数を最低5台に、などがあります。
この規制緩和以降、トラック運送事業において事業者は増加し、2018年には事業者数が6万2000を超えました。
その間、過当競争を背景とした過剰サービス、安値受注を助成させ、現在問題となっているトラックドライバーの長時間労働と低賃金をもたらしました。
4.「改正貨物事業者運送事業法」の内容について
今回の貨物事業者運送事業法改正の大きな柱は、
①業界参入規制の強化
②標準的な運賃の告示制度の導入
➂荷主対策の深度化
の3つです。これから詳しく解説します。
①業界参入規制の強化
法令違反する業者が増え、物流業界全体で労働力不足など様々な問題が発生した過去を踏まえ、業界に参入するための規制を強化します。
(1)約款の認知基準の明確化
本来の運送業務とは別の、追加的な作業がどのくらい発生しているかなどの詳細を「見える化」し、運賃、給与を正確に受け取りやすくします。
(2)事業許可の基準の明確化
トラックの点検や整備により安全性を確保し、十分な広さの車庫や資金を備える必要があります。車両台数の変更など事業計画の変更の際は、届け出または認可を受ける必要があります。
これにより、劣悪な労働環境となることを防ぎます。
(3)欠格期間の延長
法令違反などで事業許可を取り消された場合などにおいて、新たに許可を受けることができるようになるまでの期間を延長します。
②標準的な運賃の告示制度の導入
必要なコストを賄って、事業を運営する際の参考となる標準的な運賃を国土交通大臣が定めて公表できるようになります。
事業者の中には、荷主に対しての交渉力が弱いなどの理由で、必要なコストに見合った対価を収受しにくいケースも存在し、結果としてトラックドライバーの労働環境が悪くなるなど法令を遵守しない運営を行っている事業者も存在しています。
今回の改正により、事業者は健全な運営が可能となりトラックドライバーの労働条件の改善とともに、事業者の働きの維持向上が期待されています。
➂荷主対策の深度化
②の荷主に対して交渉力が弱いなどの理由で、必要なコストに見合った対価を収受しにくいケースで触れたように、物流業界の労働環境の悪化は荷主がもたらしたケースも存在します。その為、今回の改正は荷主への対策も含まれています。
主に3つあります。
(1)荷主の配慮義務の新設
荷主もトラックドライバーの労働環境の現状や、労働時間などのルールを把握することが求められます。
(2)荷主勧告制度の強化
トラック事業者が法令違反をした際、荷主にも原因があると認められた場合、荷主名も公表されるようになります。
(3)荷主への働きかけ
違反原因行為をしている疑いのある荷主に対して、国土交通大臣が、「働きかけ」「要請」「勧告・公表」「公正取引委員会への通知」を行います。
この違反原因行為には、荷待ち時間の恒常的な発生、非合理な到着時刻の設定や重量違反等となるような依頼などが該当します。
5.さいごに
いかがでしたか?「改正貨物事業者運送事業法」について理解が深まったなら幸いです。
今回の改正により、物流業界におけるトラックドライバーの労働環境悪化や、労働力不足、低賃金などの社会問題が解決に向かうことを切に願います。
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